ここはグラナダTV版シャーロック・ホームズシリーズ(NHK版「シャーロック・ホームズの冒険」のファンブログです。
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暖炉

「お帰りなさいませ、ワトスン先生」
「ハドソンさん。まだ起きていたんですか」
 夜更けにベーカー街に戻った私は、ハドソンさんに迎えられた。玄関の明かりがいつもの半分くらいに落とされていて、すでに戸じまりもすませたあとらしいとわかる。とうに寝てしまっただろうと思いなるべく静かにドアを閉めたのだが、起こしてしまっただろうか。 

 「今から寝ようと思っていたところなんですよ」
 心中を察したように、ハドソンさんはおおらかな笑みを浮かべて、歩み寄ってきた。私のコートを脱がせながら、夫人のおしゃべりは続く。
「今夜は一段と寒くなりましたね」
「ありがとう・・・そうですね。これ以上気温が下がると雪が降るかもしれない」
「それは嫌ですねえ。・・・まあ、すっかり冷えちゃって。今暖炉に火をつけますね」
「いいですよ。私もすぐに寝ますから」
 寝間着に着替え髪も下ろした女性にそんなことをさせるのは忍びない。しかし彼女はまるで小さな子供をたしなめるように、「だめですよ」と首を横に振った。
「古傷に障りますよ。ホームズ先生のことは色々とおっしゃるのに、ご自分のことになると本当に無頓着なんですから。今用意をしていきますから部屋に明かりをつけておいてくださいね」
「ありがとう」
 年齢はそう違わないはずだが、どうにもこの女主人にはかなわない。素直に礼を言うと、彼女は独特の歩調で自分の部屋に戻っていく。それを見送って私も階段をのぼり、リビングに戻った。明かりをつけながら、今しがた経験してきたばかりの事件に思いをめぐらす。
 たった今終わったばかりの事件はあまり愉快なものとはいえなかった。我々の依頼人は間一髪で助かったとはいえ、悲劇を食い止めることはできなかった。せめて被害者を死に追いやった者たちに正当な裁きが下されればと思ったが、残念なことに司直の手にかけられるのはたったの一人だ。いずれ神があの世でお裁きになるとはいえ、なんともやりきれない結末である。
 そんな事件のあとに無人の部屋に戻るとなんとも憂鬱な気分に襲われるものだが、不思議と今日はそれほど気持ちが沈まなかった。気のいい夫人のおかげでもあるし、それ以外にも理由があることを私は知っている。
「失礼しますよ」
 薪の入ったカゴを持って、ハドソンさんが部屋に入ってきた。無意識のうちに暖炉の前に立っていた私に、ハドソンさんが物言いたげな表情を向ける。やっぱり痛いんじゃないですか、という顔だ。私は少し苦笑して、彼女が作業をしやすいように場所を移動する。確かに少し足が痛んでいた。
「今日はホームズ先生とご一緒にお出かけでしたよね。ホームズ先生はどうなさったんですか」
「ああ、ホームズならお兄さんのところじゃないかな。彼から持ち込まれた事件が無事に解決したからね」
 てきぱきと動いていた老夫人の手がぴたりと止まった。顔だけを私に向けたハドソンさんは、目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。
「ホームズ先生、お兄様がいらしたんですか」
「ええ。私も今度の件で初めて知ったのですがね」
 予想通り、ホームズはハドソンさんにも家族のことを話してはいなかったらしい。ハドソンさんは声をたてて笑うと、小さくかぶりをふりながら、手を再び動かし始めた。
「おやまあ。・・・驚いて眠気がどこかに行ってしまいましたよ。ご家族がいらっしゃらないのか、いらしても絶縁しているのかと思ってお聞きしなかったのに」
 ホームズは妙に秘密主義なところがあるから、気を使っていたのだろう。彼女が私と同じような想像をしていたのがおもしろかった。ホームズの日頃の態度が、我々にそんな印象を与えているのかもしれない。
「いや、とても仲がよさそうでしたよ。ホームズはお兄さんを慕っていたし、お兄さんも彼をかわいがっているようだった。二人でいると楽しそうでね」
 だから私も今日は気分がいいのだ、と心の中でつけたす。ホームズは他人から理解されにくいタイプの人間だ。そして彼も滅多なことでは人に心を開かない。それだけに、彼がありのままをさらけ出せる兄を持てたことは、私にとってもうれしいことだった。ここ数日のことに思いを巡らせる。
「・・・そういえば初めて見たな」
 その時脳裏をよぎっていたのは、ホームズが初めて兄の存在を打ち明けた時のことだ。意識するより先に出た言葉は独り言に近かったのだが、背を向けてテンポよく薪を放りこむハドソンさんにはしっかり聞こえたらしい。
「何がです?」
「いや、ホームズが犯罪者以外の人間のことを、あんなに楽しそうに話すところをね。無邪気で誇らしげで、まるで子供みたいでしたよ」
「・・ワトスン先生はそうでしょうね」
 短い沈黙のあとに続いた言葉の意味を測りかねて、私はハドソンさんの小さな背中を見た。心なし、笑いをこらえているような雰囲気が感じられる。問いを発しようとしたまさにそのタイミングで、暖炉に火がついた。
「つきましたよ、ワトスン先生」
 赤い炎が這うように暖炉を広がり、ぱちぱちと音をたてはじめるのを見つめながら、ハドソンさんがゆっくりと立ち上がる。私は椅子から立ち上がって、私よりだいぶ低いところにある肩に手を置いた。
「こんな遅い時間に悪かったね。・・・でもやっぱり温まると気分が良くなります。ありがとう」
「いいえ。・・・あら、ホームズ先生がお帰りになったみたい」
 ハドソンさんに言われて外の様子に耳をすましてみると、確かに馬車がうちの前で止まったようだった。だが、馬車が走り去ってもなかなか家の中に入ってくる気配がない。鍵が見つからないのだろうか。彼は探偵術に関しては恐ろしいほどに神経質なくせに、日常生活のこととなるととんと無頓着で、鍵をどのポケットに入れたか忘れてしまうようなこともたびたびあった。同じことを思ったのか、言葉も交わさず下の様子をうかがっていたハドソンさんと目があい、どちらからともなく苦笑してしまう。
「私がドアを開けるのと、先生が鍵を見つけるのと、どちらが早いかしら」
 いたずらっぽく言って、困った店子を二人も抱えた家主はそそくさと出口に向かう。「おやすみなさい、ドクター」という言葉を残して、扉はしまった。それに片手をあげて応えて、暖炉に向かう。ほどなくして、ホームズのよく響く声が聞こえてきた。何を言っているのかは聞き取れないが、大方鍵のことを言い訳しているのだろう。そしてコートを脱ぐ手伝いをする大家から、一言二言お小言を食らっているに違いない。暖炉の熱で温まっていくのを感じながら、私はまた先ほどのハドソンさんの言葉を思い返していた。意図を聞くタイミングは、完全に逃してしまったようだった。このことを寒がりな名探偵に話したとしたら、どうなぞ解きしてくれるだろうか。
 ホームズが階段を上る音が聞こえてきた。

fin



〜あとがき〜
はい、やらかしてしまいました(笑)今までいろいろと好きになりましたが、二次創作をオンライン公開するのは初めてです(どきどき)拙すぎる文章ですみません(>_<)「ギリシャ語通訳」の事件解決後のつもりで書きましたが、ワトのイメージはエドワト。
ワトスン先生のことも自慢げに話すホームズ先生と、それには露ほども気づいていないワトスン先生と、そんな二人を見守るハドソンさんの図を妄想して書きました。愛されている自覚のないワトスン先生が大好きです。
posted by 葉月 | 00:55 | 二次創作 | comments(2) | trackbacks(0) |
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コメント
>ちびさん

しょーがない二次創作にまでなんという暖かいお言葉・・・!ありがとうございます。恐る恐るアップしたのでとてもうれしいです!

そうなんですよ!ギリシア語通訳のラストシーンで二人が違う方向に行ったのが気になって!でもよくよく見ると、お兄さんと同じ方向に行ったのはドクターなんですよね(笑)あのラストはどういう意味があるんでしょうね・・・?

確かにハドソンさんっていつも追い出されてばっかりですねー(苦笑)でもドラマの感じだと、日頃結構世間話とかしているんじゃないかなって気がします。そしてワトスンの話になるときらきらし出すホームズ先生。・・・すみません、完全に私の妄想です。そうだったらうれしいなと(笑)ともあれハドソンさんはちびさんのおっしゃる通り「ゴッドマザー」という称号がぴったりだと思います!!!

最初は二次創作をアップするのがかなり気恥ずかしかったのですが、吹っ切れちゃいました(笑)また懲りずにアップするかもしれないので、よかったらおつきあいください。
2009/09/05 19:53 by 葉月
わ〜い ☆☆^^☆☆
二次作品、ですね♪ ワクワクドキドキして読ませて頂きました。
ありがとうございます!

ギリシャ語通訳事件の後、そういえば、ホームズは一人で歩いてましたね・・・やりきれない風に・・・こんな展開があったとは・・・

「・・ワトスン先生はそうでしょうね」
とは、ホームズはハドソンさんには無邪気な顔を見せていた、ということでしょうか^^?
いつも、追い出すようにドアを閉めてしまう場面ばかりですが、映像にないところで、どんなやりとりがあるでしょうか?
「年齢はそう違わないはずだが、どうにもこの女主人にはかなわない」
ホームズの癇癪すら完全にスルーできるエドワトさんでも敵わないハドソンさんっていったい・・・?
ゴッドマザー?ハドソンさんあってのホムワトなのかも???

今後もたくさんの物語を待ってますね♪♪♪
2009/09/05 01:55 by ちび
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